泡瀬地区埋立事業の経済的問題点

   ‘06.02.28     
                                     沖縄大学 法経学部
教授  吉川博也

1.はじめに埋立事業ありき −基本構想からの逸脱

 本埋立事業計画(以下、「東部海浜開発事業」という)は、昭和63年の「沖縄市東部海浜地区埋立構想策定調査」を基本構想とし、平成元年に基本計画が作成された。そして現在の最終計画「マリンシティー泡瀬」は、平成3年に沖縄総合事務局、沖縄県、沖縄市によるワーキング方式により決定されたものである。

 その経緯をみると、もともとの基本構想は「海洋性レクリエーション拠点」、「国際交流リゾート拠点」であったが、その実現可能性(主として需要面)が少なく頓挫した。それを隣接する新港地区(岸壁前面)泊地に未浚渫土砂があり、この処分に困窮しており、この受け皿の埋立地として、いわば再復活したものである。
 
このことは沖縄市東部海浜開発局の報告書にも、つぎのように明記されている。

 『海洋性レクリエーション拠点形成という位置付けのみで港湾計画へ位置づけることは厳しい』と判断され、実現性の高い手法として土砂処分場としての位置付けを図るべきであるとの考え方で進めることに合意し、・・・」(平成5年3月、「中城港湾泡瀬(沖縄市東部海浜)地区基礎調査、概要版、2頁」)

 このように本埋立事業は、本来の振興を目的とするものだけではなく、目的が浚渫土砂の処分地ともなっている。本来の目的からはまったく異なったものとなっており、言ってみれば埋立事業による土木事業費を目的とし、何が何でも埋立事業ありきからスタートしている。


2.計画、前提条件の誤り −マクロ分析的としてアプローチ−

 本埋立計画の最終案「マリンシティー泡瀬」は、「海洋性レクリエーション拠点」「国際交流リゾート拠点」を基本構想とし、クルージング需要、海洋性レクリエーション需要の増大に対応するため埋立てをし、旅客埠頭計画、マリーナの建設、等々を予定している(総合事務局「埋立必要理由書」)。

 まず「海洋性レクリエーション拠点」「国際交流リゾート拠点」の根拠が明確ではない。

1)その具体的に現われた結果の一つが、年間宿泊需要56万人、宿泊施設計画1275室に基づく土地利用計画である。これは以下の推定によっている。
 平成18年(2006年)に10年間の単一相関によって外挿して、県全体の入域観光客数、6,160千人とし、沖縄市の現在の占有率1.1%を計画的に4倍にすると仮定している。そして沖縄本島・中部地域で不足する157千人分の需要のうち、107千人分を当該地域が受持つ。そして、これに基づき、つぎのような人泊/年を算定している。(前記、同理由書 1-2223頁)

          泡瀬地区年間利用人数=入域観光客数×平均滞在日数

          =107千人×5.27泊=563,890人泊/年

 この数値に基づき年間利用人数を算定し、1275室という推定をしている。

2)まずこの県の入域観光客数は需要面だけで、供給面(水、航空機、等)をまったく考えていない。つぎに当該地域の需要(4倍)の根拠がまったく不明であり、かつ最近の報告書(注)では「宮古・石垣・名護が過去10年間で2倍にできたから沖縄市
 でもできるはずだ(1-76)」というような根拠や、「地元の努力によって観光・リゾート地の形成は可能と考えられる(1-76)」などまったくの希望的観測にしかすぎないと指摘(監査意見)されている。

3)また平均滞在日数を5.27泊(2006年)としているが、‘02年度、3.77泊、‘03年度3.93日である。予測値の5.27日と‘03年との3.93日は4分の1の差があり、これはとても予測値とは言えないし且つ、本来使用すべき宿泊数との関係が述べられていない。(同理由書 1-69頁)

 1)〜3)は本計画の最も基本になる宿泊施設計画数を示したものである。

 これらの基本的な需要予測がいかに誤り、過大なものかが理解されたと思われるが、同様に埠頭用地、観光商業施設用地、等々も同様な予測がされている。

注)平成16年度「包括外部監査結果報告書」平成173月沖縄県包括外部監査人

3.実態のない土地利用計画 −ミクロ分析的アプローター−

 2.ではいわばマクロ分析、すなわち需要分析による土地(利用)需要を前述したが、つぎにミクロ(個別企業)分析の視点から実態のなさを述べてみたい。

 沖縄市では過去3回、埋立地への立地予定希望調査アンケートを実施している。‘93年は294社を対象とし、115社が回答、うち立地希望33社であった。’96年は270社を対象とし84社が回答、そして立地希望数は市の担当者が「立地希望数を具体的に公表できるものではない」と公開拒否している。2000年では18社のうち立地希望者は2社と公表している。

 また大型主要施設として市側が予定している栽培漁業試験場、海洋研究について立地予定者の中城湾沿岸漁業振興推進協議会、また琉球大学施設部はともに否定的である。
 このような本土地利用計画は、個別の立地企業・機関の視点からも具体的な実態のない土地利用計画である。

 2002年3月8日に沖縄県、沖縄市が「中城港湾泡瀬地区開発事業の推進にかかる確認作業結果について」を公表し、早期着工を要請しているが、先に公表されている総合事務局の「埋立必要理由書」と変わったところは、つぎの点である。「当面は第1区域(90ha)の早期整備を要請するという部分である。

 そして「情勢の変化があっても、借りに需要が半分になっても第1区面積相当分を上回る土地需要は十分に見込まれる(「中城港湾泡瀬地区開発事業の推進にかかる確認作業結果について」)としている。

 しかし、この第1区地域自身の土地利用の計画が変更、例えば第2区地域部分に計画されていた住宅用地が第1区域に、また多目的広場(約18ha)、等々も変更されている。

 このように仮に第1区域をするから需要を充足するという理論、計画論は成立しません。計画全体を最初から再検討する必要があります。

4.浚渫作業の緊急性・必要性なし −FTZ機能せず−

 本事業の本来の目的とするものではないものの、「浚渫土砂の処分地」として位置付けられている。またその浚渫路の水深は7.5m〜11mとされている。

 現在の中城自由貿易地域はほとんど機能せず、この制度を活用して、立地している企業はその他の様々な優遇措置がありながら、特別FTZの分譲率(後述の貸工場を含めて)はわずか15%に過ぎず、76haの広大な土地が空き地となっている(平成17年2月1日 当麻秋子意見陳述参照)。

 また県は企業立地がほとんどみられないため、これを貸工場として貸出している。このように思うように企業立地がみられないので、本来のFTZ制度の活用としてではなく貸工場を建設し貸出をしている。しかし、入居が不振である。そこで、大幅な賃貸料の値引きをし、その促進を図っているほどである。

 このようなことからも当該地域の浚渫作業の緊急性もまったくないと思われる。

5.沖縄市財政負担 −大きなリスク−

 本埋立事業の総額は約491億円で、国が埋立事業を実施し、沖縄市は90haをまず一括して275億円で購入しなければならない(平成15年3月28日協定書)。そしてこの90ha(沖縄県は175ha)を売却して、返済資金を回収する独立採算方式である。

 従って取得した埋立地がもし売却できなかった場合は、この275億円を市が最終的に負担をしなければならない。

 前述した2.3.でも明らかなように土地需要はあるにしても、ごく一部であって、大半が望めないというのが現状ではないだろうか。本埋立事業は沖縄市の財政に極めて大きなリスクをもたらすことは明らかである。

 また沖縄市の2002年度の一般会計の予算規模は382億円で、そしてすでに同負債

額は478億円、市民一人当たりの負担は38.5万円となる。この埋立事業費275億円は、沖縄市にとって規模の大きさとリスクの大きさとを理解することが出来るであろう