クリスマス・メッセージにかえて

『自己実現格差社会』出現の危険性

― 沖縄から日本、世界がよく見える ―


少し前になりますが、「沖縄から見ると日本、そしてアジア(の諸矛盾、問題)がよく見える」と言われる時期がありました。

 私にとっての今年は、そんな1年でした。

<辺野古で仲間が3人負傷させられました>

 先週、辺野古の米軍基地建設反対運動をしている仲間が、調査会社の人に3名も相次いで負傷させられました。

 地元2紙の世論調査によれば、県民の8割が反対していることが明らかです、にもかかわらず、ボーリング調査を強行しようとしています。

 そして辺野古に隣接するキャンプ・シュワーブからは現に人殺しのためにイラクに1,800名が出兵しています。辺野古に米軍基地が出来れば、このような人殺しの施設になることは確実です。

 数年前、ベトナムのホーチミンへ行った時、沖縄から来ましたと言ったら、空爆の飛行機は沖縄から来て、そして沖縄へ帰って行きましたと言われ、なんともいたたまれない気持ちとまた反対しなかったことの責任を感じました。

 一方、辺野古関連市町村(のかなりの人々)が、反対したくとも補助金漬け、公共事業漬けにされて、土木事業がなくなると生活ができないような構造にさせられ、反対できずに賛成動議にまわっています。そう思い込まされているのであって、私は後述するようにいろいろな解決法はあると思っています。

 辺野古の問題一つ取っても、米国政府―日本本土政府―沖縄県―辺野古住民という構造が透けて見えます。

 息子がこのことについて『平和を実現するキリスト教ネット』のニュースレターに、連載「天を仰ぎ地を歩く 沖縄島から」(PDF)で書いていますので、添付させていただきます。ご参照ください。

 <地域自律(自立)力こそ問題解決>

自分の住んでいるところの、又、昔から生活の糧になっているサンゴの海(写真)が破壊され、そこに人殺しのための軍事基地が造られるのに反対しない人はいないでしょう。今の沖縄県政は、国が決めたのだから仕方がないと、いわば居直っています。今と同じような状況があったとき、ではこうしたらどうかという答えを『どうする沖縄経済』という新聞連載(29回)したことがあります。これが私の今も変わらない1つの答えです。

この辺野古の基地建設でも「基地建設対環境」「開発対環境」といったあまりにも古典的な図式にのみとどまっている(或いはすり替えられている)点こそが問題であると私は思っています。例えば、名護市が1973年に真の豊かさとは何かを問い、『逆格差論』(注)を打ち出し、「基地建設」「開発」に対して「環境」を対峙させるとき自らの具体的な生産体系、例えば「山原型土地利用」を提案しました。

このように暮らしを立体的に構想、創造さらに想像する力、すなわち地域自律(自立)力がなければ、仮に基地が無くなっても、その後の地域像の樹立、また内発的発展への展望は不可能です。

もう少し簡単に、単純にいうと沖縄経済の自立で、他に頼らずにまず食べていけることが第一歩です。

ここからは少々、我田引水ですが、私は県民が食べていけるために「沖大ベンチャー公開講座」を沖大に赴任した1年後の’96年より開講したり、起業支援・協力、ロール・モデル(株式公開)を自ら試みるなど、大いに楽しんでいますが、一方で随分と努力もしているつもりです。ご興味のある方は、この辺の葛藤が出ている私のホーム・ページをご覧下さい。

(注)『逆格差論』:名護市総合計画(1973年)で提案された論議。所得格差論に対する概念で、生活逆格差論といってもよい。所得格差が名目的なものであるのに対して、実質的な家計における収入と支出のバランスでみる。このようにその地域に住む者にとって所得が本当の暮らしやすさの目安になるか、地域振興の論拠になるかが、逆格差論で問われた(沖縄大百科事典、沖縄タイムス刊を参照にしてまとめた)。

<タクシーの運転手さん、年収わずか180万円?>

 では沖縄の経済、生活の状況を失業率とか、本土の所得格差率というような抽象的な数字ではなく、

沖縄のごく普通の人々の所得がどんな状況かを示してみましょう。皆さんも確認してみてください。

 私はある都市、地域へ行ったとき、そこの所得の平均値というよりは最頻値を簡単に推定するために、次の方法をよく用います。タクシーの運転手さんの所得を聞き出す手を使います。勿論、所得はいくらですか、とは直接聞けませんので、月の水揚げ(売上げ)を聞きます。大体、その半分が運転手さんの取り分になります。

 那覇市内で皆さんも聞いてみて下さい。大体月30万円前後で、40万円を超える運転手さんはそう多くはいません。とすると、15万円×12カ月=180万円となります。本当に、沖縄では最も多くの人々の所得(最頻値)は200万円前後なのです。

 この所得では、結婚をして、家庭を持って子供を育てるということは不可能です。これでは共稼ぎ(それもアルバイト的な)を続けなければ、家庭を持つことは不可能です。

 そしてこの低所得は、さらに「自己実現、希望実現格差」社会を生んでいます。大学でちゃんと頑張って自治体や大・中企業に就職を目指す2〜3割の学生(就職先が少なくとも、これくらいしか就職できません)と、それをあきらめた学生です。この結果、沖縄の完全失業率は全国の約倍近い8%、さらに若年失業率は全国の3倍近い25%です。沖縄は全国の先取りをしていて、沖縄から日本がよく見えるといってよいでしょう。

あきらめた学生は、その日その日を、飲んで楽しく過ごせばよいと、刹那的な生活を送っているようです。(しかし、つぎのような反論もあるでしょう。あなたは大学の教師をしているので大学生間での格差拡大を大問題に考えているが、大学へ行けた若者と行けなかった若者との「自己実現格差」は昔から厳然としてあるのに問題にしないのかと。確かにその通りです。)

 ここに示したのは、私が学生に対する実感ですが、沖縄ではこのような「自己実現、希望実現格差」が社会全体の構造を覆っているように思われます。

 自己実現、希望実現こそ人間にとって生きるための力、モチベーションの原動力です(と私は思っています)。学生時代こそ自己実現のための準備をする機会なのに、それが持てない学生層の出現とその拡大は社会活力を失わせてしまいます。

<「自己実現、希望実現格差社会」出現の危険性>

沖縄で実感しているのはこのように「所得格差」が自己実現、希望実現格差社会をさらにはそれらの喪失を生んでいることです。

この現象は日本全体でも、急速に生じつつあるのではないでしょうか。それはグローバル競争の現実化、IT化の進展、ビジネス・モデルによる企業競争、等によって日本も急激に「自己実現格差社会」になりつつあります。日本も米国社会と同様、労働市場は専門的知識、クリエイティブな能力、キャリアー・プランを持ち実行していける、いわゆる「勝ち組」(あまり使いたくない言葉ですが)と単純労働にしか従事せざるを得ない「負け組」とに二極分解しつつあります。日本の社会(しかし途上国では飢えに苦しむことになります。日本の社会ではという限定も大きな問題です)では「負け組」になった人でも飢えに苦しむことはありませんが、『生活に希望が、自己実現が持てなくなった』人になります。問題なのは前述の現象に適応できない人から奪っている「希望、自己実現」です。

これまでは少なくとも大学に行きさえすれば(?)、一定の職につけ、一定の収入が得られ、結婚し家庭が営めるという期待、これまでのいわば暗黙的、社会的約束が日本社会全体で急速に失われつつあります。この現象は決して望ましいことではありません。

私がこれまで沖縄でもビジネスの支援、成功例を示すということでやってきたのは、この「勝ち組」を積極的に育てるということでした。そしてその結果、また「負け組」を積極的に作るということをやってきたわけです。

「勝ち組」「負け組」という区分けでなく、各人が多様な価値観に基づいて生きていける社会を作っていくことが必要です。紙面の関係もありますので、結論、提案のみさせていただきます。

図『多様な価値観に基づく活動分野と組織』の第T象限に示すように、これまで私が支援してきたのは、利益志向、そしてグローバリゼーション対応の企業です。しかし、つぎのようなより広い、多様な組織(企業、NPO、等)で第U〜W象限が想定できます。

 第U象限に示されるようなミッションに燃えて、世界的に活動したい人もいます。

また第V象限のようなスローライフやローカルライフなど、あくせく働くことをせず、マイペースでゆとりのあるライフスタイルをしたいという人もいるでしょう。また地域が抱えている福祉、環境問題を住民・市民が自分たちで持っている技術、ノウハウや生活の知恵といった資源を用いてビジネスという形で問題解決することが可能であろう。

第W象限はIT革命によって、個人がビジネスに挑戦する機会を多数創出していることを示しています。その典型がSOHO(スモール・オフィス、ホーム・オフィス)であり、急速に増加している。

それぞれがそれぞれの望ましいライフスタイルで生活できる世界を作ることが、問題を解決します。

 つぎにどのようにしてこのようなシステムを作り出してゆくか、公的に支援していくかという問題になります。私はこれまでは第T象限に関する研究、教育、それに支援、協力が主でした。今後はさらに拡大してU、V、W象限にも進めてみたいと思っています。

 またこれから改めてお願いの連絡をするのですが『年収300万円時代を生き抜く経済学』の著者で沖縄ファンの森永卓郎氏を来年の夏期集中講座の講師に4〜5日お呼びして、個人的な生活の自己防衛という視点から、お話し頂こうと計画しています。多様な職業の社会的なアプローチと個人の生活防衛という、両者からのアプローチが必要だと思います。

 さらに前述の多様な価値観に基づく仕方と総合化したものを沖縄をケースにして、ご一緒に考えてみたいとも希望しています。

 それではよいお年をお迎えください。