4.IT化、デジタル化によるベンチャー・ビジネスの可能性
−沖縄音楽の産業化の可能性−

(1)世界的に注目される沖縄の音楽

 沖縄には音楽が生まれる環境がある。日本一豊かな自然環境、独自の文化は、芸術にとって最も大切な感性を育む。また第二次大戦後、米軍兵士に対するジャズやロック・ミュージック、等の音楽サービス、供給というニーズの下で音楽産業、ビジネスが発展したという特殊事情もあった。

 このような環境の中で伝統的な民謡や島唄は次々に新しい作品が生み出され、人々に親しまれている。この他にもオキナワン・ポップ、ロック、ジャズといったジャンルの音楽も盛んである。

 そしてこれらの音楽は生活に身近に存在し、人々が気軽に楽しむことができる。街の至るところには、民謡酒場と呼ばれる民謡のライブが聴ける居酒屋をはじめ、様々なジャンルのライブハウスが存在する。

 このような音楽環境の中で、沖縄は日本全土、世界で活躍する多くの音楽資源、アーティストを輩出してきた。その典型が「花−すべての人の心に花を−」で世界的にも有名になった喜納昌吉(きなしょうきち)である。

 しかし、これまでこれらの音楽資源のほとんどは東京へ流出した。沖縄県出身の人気アーティストのほとんどは本土のメジャーなレコード会社からのデビューである。このような状況下では、いかに沖縄の音楽が売れようとも、県出身のアーティストが活躍しようとも、その収益は東京へ流れ、地元には還元されない。

(2)音楽産業を取り巻く環境の変化

 これまで、沖縄の才能豊かなアーティスト達は、東京からでなければ全国的な音楽活動を展開することが不可能であった。しかし、音楽業界を巡る状況の変化により、インディーズと呼ばれるメジャーに依存しない自主制作するレコード会社が急激にオーディオレコードの販売量を伸ばしている。

 ここでケースに取り上げるのは販売枚数266万枚、売上げ54億円でインディーズ・レコード会社で売上げ1位の沖縄出身で、沖縄を拠点に音楽活動をしているアーティストで「モンパチ」という愛称で親しまれているMONGOL800である。

 インディーズが急成長したのは主としてつぎの2つの理由である。

@ CDアルバムの制作コストがこれまでのアナログ時代であれば、録音機材の関係で2000万円ほど掛かった。しかし近年、デジタル化により低価格の機材でも音質を得られるようになり、これまでの10分の1の200万円で可能となった。

A メジャー・レコード会社はマスメディアを利用して、大規模なプロモーション活動を行なうことが可能である。すなわち新聞、雑誌;CMやドラマとのタイアップなどであって、こうしたプロモーションは音楽販売に大きな影響力を持っている。しかしここ最近、インターネットが日本全国で普及してきた。イターネットの世界であれば、東京であれ沖縄であれ情報の発信場所として不利性はないし、コストも掛からない。

 これまでインディーズ・レコード会社はリスナーに情報発信することが困難であったが、インターネットの普及により、現在は全国へ向けて情報を発信しやすい環境になっている。例えばリスナーにほとんど無料でHP等を通して、継続的に情報を届けることが可能である。携帯電話、電子メール、インターネット掲示板、等の新たなコミュニケーション・ツールもインディーズ・レコード会社の伸びに大きな影響を与えている。

 このインターネットによるPR、広告の可能性はインディーズのCDのみならず他の商品についても共通している。インターネットの普及によってHP、電子メール、インターネット掲示板によりきわめて安い広告費で全国、いや世界中に可能となった。これは個人でも可能であり、大企業と差はない。

このことはベンチャー・ビジネス創造にきわめて有利である。

(3)沖縄関連音楽産業の3つのモデル、タイプ

 音楽ビジネスにおける権利と収益の構造を踏まえた上で、沖縄のアーティストを3つに分け、沖縄(地元)への収益という視点から比較してみたい。

ケース1:「安室奈美恵型」
      歌うアーティストは県出身であるが、日本本土メジャー・レコード会社に所属している。売上げは100億円を超えている。曲の作曲、作詞は日本本土の作家陣が行なっており、したがって著作権は本土の音楽出版社が確保している。

ケース2:「Kiroro型」
      歌うアーティストは県出身であり、メジャー・レコード会社に所属している。作曲、作詞は同じアーティスト自身が行なっている。ただし、著作権は日本本土の音楽出版社によって確保されている。

ケース3:「MONGOL800型」
      作曲、作詞そしてアーティスト自身が歌っている点は、「Kiroro型」と同じである。しかし県内のインディーズ・レコード会社に所属しており、著作権も県内で確保している。

 それぞれのケースにおいて、沖縄に還元される収益にどの程度の差があるか以下に示してみよう。

アーティスト
印税

著作印税

原盤印税

CD自体の
販売収益

制作・
流通コスト

沖縄への
    収入

著作者分

出版社分

  金 額

54円

81円

81円

351円

603円

1,830円

安室奈美恵型

 ○

54円

Kiroro型

 ○

315円

MONGOL800型

 ○

1,170円

(財)南西地域産業活性化センター編「沖縄音楽の産業化可能性調査」報告書より

CDアルバムの小売価格を3,000円とする。まず「安室奈美恵型」であるが、唄のみのアーティスト印税(2%として)で本人には54円が還元される。

「Kiroro型」は作詞、作曲も行なっているので、アーティスト印税に加え、著作印税が81円の計135円が本人に還元される。「MONGOL800型」はアーティスト印税、著作印税、また県内のインディーズ・レコード会社によって原盤が制作されているので、原盤印税351円、CDの販売収益603円が沖縄県内レコード会社の収益になる。ただしかかった制作費、流通コスト1830円は支出となり差し引き県内に1,170円のお金が落ちることになる。

なおこの「MONGOL800」のインディーズ・レコード会社「High Wave」は2002年に7億4千万円の利益をあげ、沖縄県内所得ランキング19位にランクされている。

 沖縄が音楽によって経済的な収益を確保しようとすれば、前述したようなケース3のようなビジネス・モデルを構築すれば可能になった。それはIT化、デジタル化によってはじめて可能となった。このことは他の産業、企業でもベンチャー・ビジネスまた地域産業にも同様なこと、可能性を示している。